
ガラパゴス現象についてのさまざまな議論に欠けていて、その問題の本質をピタっと主張できないことに妙な落ちつかなさがあったが、その要となるところをここまで明快に描き出した本はこれまでなかった。非常に読みやすい本でもあるので、誰でもいまこそこの戦略論を読むべきと思う。こういう共通の認識をもつのはスタート地点にすぎず、そこから具体的な戦略を展開していかなければ勝てないのだから。
▼『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』
(妹尾 堅一郎)
技術で勝っても、知財権をとっても、国際標準をとっても、事業で負ける日本企業。その構造を明快に解き明かし、技術立国日本の生き残りをかけた処方箋を提示。急所技術を見極めた研究開発、抜け目のない知財マネジメント、それらを前提とした「市場拡大」と「収益確保と」を両立させるビジネスモデル構築という三位一体経営による競争戦略とは。
この本は学術書ではなく、いわば緊急に出した警告の書である。最後に著者の妹尾教授も書いているが、今後より活用しやすいフレームワークの本も出されることだろう。ぜひ期待したい。
ガラパゴス現象に代表されるような日本企業の国際競争力の脆弱性について、一部では「だから日本はダメなんだ」的な論調もあれば、一方で「アメリカの陰謀だ」的な主張もある。しかし陰謀論は必然的に思考停止に至ってしまう。情緒的な卑下の感情も何も生み出さない。
正しい現状認識は、本書が明らかにしているように、欧米がここへ来てさらに自信を深めている新たな戦略の展開を日本が理解しきれていないことにある。
特にインテルのやり方、アーキテクチャの中での位置どり、全体アーキテクチャへの影響力の保持、高い収益性の確保といった点は、この新たな戦略の代表格だ。こういうプラットフォーム戦略ともいうべき動きについては、これまでも多数の書籍がそれを紹介してきている。たとえばビジネスアーキテクチャ、モジュール化、プラットフォーム・リーダーシップ(クスマノ)、ビジネスエコシステム(イアンシティ)、オープンイノベーション(チェスブロウ)などなど。
しかしなかなか学ばない。あるいは学んでも完全消化できず、ますます欧米のいいようにされてしまう。妹尾教授はオープンイノベーションに対してもかなり懐疑的である。それは収益性を無視して単に欧米型オープンイノベーションを導入することへの懸念だ。もっとしたたかに戦略的にオープン性というものを活用すべきだということを主張する。政策側のレイヤー規制に対しても批判的である。もしそれが日本企業を弱体化させるのであれば。
本書の中で何度も出てくる必勝方程式は、以下の3つであり、これらをあわせて展開することが「三位一体」経営とする。
1.製品特性(アーキテクチャ)に沿った急所技術の開発
(アーキテクチャと戦略技術)
2.「市場の拡大」と「収益確保」を同時達成するビジネスモデルの構築
(普及戦略とビジネスモデル)
3.独自技術の権利化と秘匿か、公開と条件付きライセンス、標準化オープン等を使い分ける知財マネジメントの展開
(オープン化と標準化戦略)
ちょうどこの本も読んだ。
日本経済新聞出版社
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ものつくりとか「巧の技」にこだわるだけでは勝てないというもので、根本的な問題認識として、日本におけるシステム思考の欠落を指摘している。
これにはまったく同感で、妹尾教授も同じ事を指摘している。
妹尾教授は民間出身だが、学術の分野に進んだきっかけは、チェックランド他の『ソフト・システムズ方法論』との出会いだという。ちなみに妹尾教授が翻訳している。この本は私の蔵書の一つだが、入社後しばらくしてシナリオプランニング研究に夢中になっていた際に入手したものだ。個人的に『キーストーン戦略』(イアンシティ)を翻訳した動機も似ているのではないかと思う。
システム思考は勝てる戦略を開発するうえで必須である。これからはますますこの傾向は強くなるだろうし、そのためにもまずは現状の敗因をできるだけ正確に認識する必要があるだろう。
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