07.Innovation : 『戦略とイノベーション』:日本経営学の最先端と産業イノベーションの国際比較

この論文集は秀逸です。これまで、それぞれバラバラに目を通してきた最近の経営学の最先端分野について、ざーっと確認することができます。忙しくてなかなかビジネス書を読めない方も、こうしたテキストをときに眺めるのは役に立つのではないでしょうか。
■『戦略とイノベーション リーディングス日本の企業システム第2期』(2005)
引用:
日本の企業や経済システムに対する評価が揺らいだかに見えた1990年代。諸学問においては,その強みや普遍性・特殊性について,現実を鋭く見据えた分析と考察が積み重ねられてきた。これらの研究成果を経済学・経営学・歴史学を中心に精選・網羅し,体系的に位置づける。93年に発行され,必読論文集として好評を博した同名シリーズの第2期。
競争優位を獲得し優れたイノベーションを起こす戦略とは何か―日本企業の強みと弱みを「“見失った”10年」に,経営学者たちは深い思考をめぐらしていた。日本企業の技術力・組織力の本質と問題点を解明する選りすぐりの傑作論文13篇を収録。
<目次>
序 章 1990年代の経営戦略研究=沼上 幹
Part1 戦略の思考法
第1章 新しい事業システムの設計思想と情報資源=加護野忠男
第2章 間接経営戦略への招待=沼上 幹
第3章 競争戦略論と経済学の共進化=淺羽 茂
Part2 日本企業の戦略とイノベーション
第4章 技術戦略に基づく競争戦略の展開=新宅純二郎
第5章 マルチプロジェクト戦略=延岡健太郎
第6章 イノベーションと情報の粘着性=小川 進
第7章 日米HPC産業における性能進化=軽部 大
Part3 アーキテクチャをめぐる考察
第8章 アーキテクチャという考え方=青島矢一・武石 彰
第9章 経営戦略としてのオープン・アーキテクチャ=國領二郎
第10章 モジュラー化の罠=楠木 建・H.W.チェスブロウ
第11章 組織能力と製品アーキテクチャ=藤本隆宏
Part4 歴史的視野が見せてくれるもの
第12章 資源の集中による間隙=島本 実
第13章 技術システムの構造化理論=加藤俊彦
すべての論文が意義あるものと思いますが、沼上幹氏による序論「1990年代の経営戦略論」は、なるほど!と唸らされます。
例えば、1990年代の「失われた10年」の捉え方について、経営戦略論の研究者たちの基本認識は、
「日本経済の低迷を招いた元凶は金融部門にあり、日本の製造業企業が採用してきた経営方法が原理原則として間違っていたということではない」
というものだった、と言います。実際、日本の製造業企業の多くにとって、バブル崩壊後の業績低迷はそれほど長続きしていないということなのですが、これらは一般の新聞等メディア報道を鵜呑みにしがちなわれわれにとって、意外な指摘だと思います。
沼上氏はまた、経営学の新たな潮流として、(1)アーキテクチャと(2)ゲーム理論を挙げています。
引用:
しかし日本の製造業企業には非の打ち所がないと経営学者たちが考えていたわけではない。(中略)当時から現在に至るまで経営学研究者に最も注目されてきたのは、日本企業のアーキテクチャ(基本設計)の弱さであったように思われる。
アーキテクチャに関する問題が、本格的に経営学者の研究対象として取り上げられ始めたのは1990年代の半ば以降で、その理由は、パソコンのCPUや基本ソフト(OS)、情報通信ネットワーク等の領域でグローバルに見た場合に、米国企業が日本企業よりも優位にあるケースが多い、という現実認識であったから、と説明しています。
一方、1990年代から今日まで最も広く流布している学説として、ポジショニング・ビューとリソース・ベースト・ビューという2つの戦略観があるわけですが、日本の経営戦略論研究者たちは、必ずしもこの標準的な図式にこだわっていないそうです。
引用:
日本の経営戦略論研究者は、むしろこの二項対立の図式に強く執着することなく、リソース・ベースト・ビューとポジショニング・ビューの両方をうまく活用しながら、「直感に反する洞察」を追い求めた研究を積み重ねてきたように思われる。1990年代の業績を振り返ってみると、資源か機会かという問いよりも、むしろ企業間の相互作用を通じて、それらがダイナミックに変化していくプロセスに焦点を当ててきたように思われる。すなわち、ある時点での経営資源の企業間分布と機会・脅威の業界内分布に応じて、各プレイヤーがそれぞれ合理的と思う戦略を策定して実行し、その実行を通じて、それらの資源と環境の状況が変化し、その変化に合わせて各社がまた戦略を修正し、企業間の相互作用が移り変わっていく、という産業進化のプロセスに注目していた。
1990年代半ば以降に、ゲーム理論の影響が経営戦略論の領域に多数出現していることが認められるとのこと。
さらに2000年以降、たとえば『戦略不全の論理―慢性的な低収益の病からどう抜け出すか』などが注目を集めていますが、これは、「日本企業の戦略と組織に本質的な欠陥が存在するのではないか」という仮説の検討が本格的に創始されたという流れの中に位置づけられるそうです。
この背景としては、日本の製造業企業が1999年頃からもう一段低い底を経験していること、また、利益率が長期低落傾向にあること、電気機械の利益率回復が遅れていることなどがあり、この仮説は、今後多様な実証研究が待たれる、という段階のようです。(この議論に関する論文は、本書には収録されていない)
「産業イノベーション」の「国際比較」、あるいは「歴史的考察」という観点から、本書とあわせて読んだのが、以下の資料です。
■『Made in America―アメリカ再生のための米日欧産業比較』(1990, MIT産業生産性調査委員会)
これは、1980年代における米国製造業企業の低迷を、広く深く分析した興味深い資料で、勢いのある日本製造業企業を国家の産業政策と関連付けながら分析し、米国産業界および政府へ提言を行うという内容となっています。
いまあらためてこの資料を読むことにより、現在、日本で議論されている最先端の研究成果の意味を相対的に考えることができるように思いました。
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